XX年XX月XX日「小説家は・・・を使わないらしい」 「ぐるるるるる」 「・・・・・・」 「ぐるるるるる」 「・・・・・うん?」 寝ぼけ眼で私の上に感じた重さの元を見ると、何かを訴えるような目の愛虎のポチがいた。 はて、なんだろう? 思い浮かばず、何気に時計を見ると、まだ6時前であった。 まったく、まだ起きる時間まで2時間もあるじゃないか。まぁ、たまには早起きも いいだろう。はだけたガウンを直し、カーテンを開ける。 既に外は明るく天気も良く、東京タワーも都庁もよく見える。 空調設備の整ったこの部屋は、季節に関係無く常に一定の温度に保たれており、温度による 不快さ(寒さとか暑さ等)は感じない−そのぶん、外に出た時に辛いのだが−。 TVをつけると天気予報がやっていた。どうやら今日は今年一番の寒さらしい。 少し憂鬱な気分になる。 その時、ポチの謎の行動の原因を思い出した。 昨日遅くに帰宅し疲れていたため、えさをあげずに寝てしまったのだ。 横で元気の無さそうなポチの頭をなで、エサを与えることにした。 「ポチ、遅いが食事の時間だ」 「がう〜」 ポチの専用食堂(単なる部屋だが)に連れて行き、扉を閉める。 どうやら人に見られながら食事をするのは嫌らしい。一度も目の前で食事をしたことがない。 更にその間、人の悲鳴や怒号等がかすかに聞こえてくる。 いつもエサは秘書が用意してくれ、私はただその部屋に連れて行くだけなので原因はわからない。 私は細かい事を気にしない性質だし、面倒なので、考えないようにしている。 その間シャワーを浴びることにした。もう少し眠っていたかったが、遠回りして早朝ドライブ でもしようと考えたのだ。たまにはそういうのもいいだろう。 出てくると扉の向こうでガリガリ音がする。どうやら食事が終わったらしい。 扉を開けるとあくびをしながら出てきた。もう少し紳士的な態度でいて欲しいのだが・・・ 手短に準備を済ませ、家を出た。ポチが来ないところを見ると寝てしまったのだろう。 エレベータで地下駐車場に向かう。この着くまでの時間がまどろっこしい。 やはり一軒家が欲しい。金銭的な問題はないが、場所の問題がある。なかなか希望にかなう スペースが無い。だからといって郊外に行くのも何だか嫌だ。 我侭だな。そう、私は我侭なのだ。だが、今までの苦労を考えればこれくらいは許容範囲だろう。 ぴんぽ〜ん そんな事を考えてるうちに地下についた。随分長い時間が過ぎた気がする(実際はほんの数十秒だ)。 愛車のフェラーリF355Berlinettaのエンジンをかける。 暖気してる間煙草を吸うことにした(つまりそれくらいかかるということだ)。 今日はどこを走ろうか。いつものコースを通ると、会社まで30分位である。早起きを加味すると 余裕は2時間程度。これならトラックで混んでいる湾岸を往復できるだろうか。 少しくらい遅れてもいい。今日は午前中はこれといった用事もないのだ。 私の中でOKが出された時、丁度煙草を吸い終わった。 駐車場を出てしばらくはミッションやエンジンをいたわるように低回転で走る。 そんなヤワな車ではないが、距離が結構いってるだけに心配である。 通勤だけでなく、出張などでもよく乗っていく。それだけこの車と一緒にいたいのである。 余裕のでてきた最近では仕事を選び、車で行けるようにスケジュールの調整をしている。 といっても、するのは秘書であるが・・・ そう、秘書がいるのだが、人の運転する車に乗るのが苦手な私は、なるべく自分で運転するように そしてなるべくどこでも避けるようにしてきた。どうしても仕方無い時だけ乗るのだ。 だから、私の運転する横で秘書が寝ているなんてことも日常茶飯事である。 これは我侭を聞いてくれている有能な秘書への、ささやかなプレゼントである。 もっとも、私がたまに眠れる獅子を醒まさせているため、精神的に疲れているのかもしれないが・・・ すいてる道を順調に抜け、湾岸道路のインターチェンジに着いた。 合流のためにシフトダウンをしてアクセルを踏み込む。3.5リッターV8エンジンが唸りをあげる。 少しリアが流れるのをステアリングで調整しながら加速させる。 無事合流し、制限速度に達するが、まだまだアクセルを緩めない。 3、4、5、6とシフトアップし、深夜よりは混んでいる3車線の道を、まるで止まっているように 感じられるトラックの間をぬうように走る。 メーターはリミッターのかかっている国産車では到底追いつかない速度を差している。 最近エンジンのパワーダウンを感じるものの、それくらいの速度は簡単に出せる。 伊達に3.5L,NAで380ps出ている訳ではない。 そのうち料金所まで500mという看板が見え、ブレーキを踏み速度を落とす。 ゆっくりヒール&トゥを使いながらシフトダウンし料金所に侵入。 ハイウェイカードを使って料金を支払い、今度はゆっくりと加速する。少し混んできたからだ。 右側の追い越し車線をたまにパッシングして邪魔なトラックを排除し流していると、後ろから まるでレーシングカーのような甲高い排気音をさせた車が猛スピードで近づいてくる。 バックミラーで確認するがわからない。かすかにターボサウンドがする。 まさか!? バックミラーへの集中力を高め、高まる鼓動を抑えながらややスピードを落とす。 やがて、その姿をはっきり確認することができた。やはり想像通りF40だった。 最高速度は320km/hを越え、ゼロヨン12秒台。フェラーリが40周年記念として作ったスーパーカー。 湾岸を走るならば、車同士を比較すればほとんど勝ち目はない。 だが、長いこと走り続けてきた意地がある。それに今はトラックで混雑している。 変な汗が沢山出てくる。色んな事が頭に浮かぶ。相手、勝利、敗北、事故、死・・・ 意を決したように2速まで落としアクセルを床まで踏み込む。早起きさせてくれたポチ、そして 昨日帰りを遅くさせた原因を作ってくれた彼女に感謝しながら・・・ つづく・・・